会員リレー・エッセーA

リタイアしても一息つけません
  

        
本 山 文 子     


 職場をリタイアして数年たちますが、一息つくどころか、種種雑多な活動に顔を突っ込んで、何かと忙しく飛び回っています。
 いま私の1週間の内では、比較的消費者団体の一員としての活動に時間を多く割いています。消費者問題は、食、環境、税・社会保障、平和、消費者政策等々暮らしに係わるすべてを扱っているといってもいいのですが、ただし労働の側面の観点が弱いのが現状です。ですから労働運動の友人たちからは私が異業種に行ったように受け取られてもいるようで、この(女性労働問題研究)ホームページのリレー・エッセーの2番手はいささか気が重く感じていました。とはいっても、非正規労働者の増大、格差拡大、社会保障の切捨ては、消費者運動の大きな課題になってきているので、少し書かせてもらうことにしました。
 皆さんご存知のように、現在、製品事故や食品や薬品の安全性、偽装表示、クレジットやサラ金被害、多重債務等消費者被害が増大しています。今年の世相を表す漢字に「偽」が採択されたようですが、「偽」に関わるニュースがない日はなかった一年でした。
 ところで消費生活相談窓口に寄せられるクレジットやサラ金被害の相談者の多くは、給与生活者・労働者です。他にも、「これぞ労働問題そのものでは?」と思うものもたくさんあります。少し事例をあげますと、
  「折り込みのチラシに在宅ワーク、ホームページ作成とあったが、仕事どころかパソコンやテキストを買わされた」。
  「短期アルバイト、着物展示会の案内、3日で3万円といいながら、仕事に必要と30万円の着物をクレジットで購入、その後の仕事はなかった」。
 「健康商品の紹介販売などのマルチ商法マガイの仕事」。 こうして宛名書きやチラシ配り、ハウスクリーニングの代理店など、昔からの内職商法は形を変えて存続し広がっているのです。就職難や雇用不安、リストラのもとで、仕事をしたいという気持ちに付け込まれ被害者となってしまうケースが後を絶たないのです。
  また、訪問販売の建築工事や補習教材など長時間、真夜中までの訪問は大きなトラブルの原因になっています。販売員も歩合制ですから契約を取らなければ収入にならないのです。絶対に許されることではありませんが、このような違法を強要する問題業者の元で働く労働者の姿を思い浮かべると、暗澹たる思いもします。
 新聞紙上を賑わしたコムスンの介護サービス不正行為トラブル、外国語学校NOVAの契約解約トラブル、これらも少し角度を変えてみると、そこで働いていた人たちにとって雇用の継続の停止など労働問題そのものであることがわかります。また、増大する消費者被害の相談窓口である消費生活センターで働く相談員の身分、雇用条件も不安定であり、私が「定年退職と女性」(女性労働問題研究会編2004年)で書いた消費生活相談員の処遇改善は今なお私のテーマなのです。
 今年の全国消費者大会のテーマは「発揮しよう!消費者の底力!!安心してくらせる社会のために」でしたが、全体会と分科会のひとつに格差拡大とワーキング・プアの増加が報告されました。その大会の全体会記念講演は、長年、多重債務問題に取り組んでこられた宇都宮健児弁護士でした。昨(2006)年、労働団体や消費者団体など幅広いネットワークにより、画期的な新貸金業法(貸金業規正法、出資法、利息制限法の改正)が成立していますが、宇都宮氏は、その運動の上に立って、本(2007)年9月に「反貧困ネットワーク」の結成に加わり、その代表にもなっています。講演の中で氏は、多重債務問題の根本的解決のために貧困問題の解決――働く貧困層(ワーキング・プア)対策の強化と生活保護を始めとする社会保障の充実が必要であると力説されました。そのためには、(1)同一労働・同一賃金制度の確立と最低賃金引き上げによって非正規労働者の待遇を改善し、(2)非正規労働者を増加させる大きな要因となってきた規制緩和策を見直し、(3)生活保護制度よりサラ金や闇金融のほうが身近な存在になっているという矛盾した現実を直視し、生活保護制度の抜本的な充実・改善によって文字通りのセーフティネットの確立が喫緊の課題だと述べられました。
 考えてもみれば、これは全く労働運動の課題そのものではありませんか。消費者問題の底には深刻な労働問題が横たわっていることに改めて気がつかされたのでした。この集会の分科会では、当研究会の会員でもある首都圏青年ユニオンの河添書記長が青年の実態と運動を報告していましたが、いわば当然のことであったのかもしれません。
 人間らしく安心して暮らしていくためには、消費者運動、労働運動、社会保障運動を、互いに手を携えながら共に発展させていくことが必要です。それがいま求められている現実の運動課題になっていると強く感じています。
 仕事をリタイアし、もっぱら「消費の側」に身を置くとばかり思っていた私ですが、消費者問題は労働問題でもあることを痛感し、引き続き頑張りたいと思っています。


 

(2007年12月28日記)